キリマンジャロのアホ


序章:日常に不足したもの

本編:キリマンジャロのアホ
後記:登頂したい人たちに    

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2000.09.19
キボ・ハット 地獄の高度順応2 Mawenzi・Mawenzi   

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夕食はあまりのどを通らない。
高所では、消化機能が低下するため、脂っぽいものは摂取すべきではない。
しかし、エネルギーとなる、糖分や炭水化物の摂取は続けなくてはならない。
とりあえず、普段は飲むことのない甘い紅茶を何杯か流し込む。
神様は、今日もウイスキーを飲んでいる。
御隠居も口数は少ないが、元気そうだ。
フクちゃんは軽い頭痛がするらしい。
アリは大きな息を続けているが、心配はいらない。
準備の終わった者から仮眠に入るが、心拍数の収まらない私はまだ調整の必要がある。

アタックさながらの装備をつけて、キボ・ハットの牢獄のような重たい扉を開き、冷え始めた夕暮れの斜面に向かう。
できるだけ大きな呼吸法を採り、少し登ったところで足踏みを続ける。
振り向くと、最後の夕日を浴びてそびえる厳しくそして美しいマウエンジ峰が網膜に焼付いてくる。
いや、今やマウエンジはそびえるという表現よりは、目線の高さにあると言ったほうがより正確であろう。
遥か下方に雲海を従えている。

なんと言う風景なのだろう、ここに来て良かったと、魂が歓喜するのを抑えることはできない。
地球上には、まだ見るべきものがいくつか、あるいは何百か何千か存在するに違いない。
そんなことを思いながら、このマウエンジを撮るために、残り少ない高感度フィルムを1本使った。
深呼吸をするたびにファインダーが曇る。

キボ峰のあるはずの方角には、太陽が冷たい空気にかき消されるように沈んでいった。