序 

2005年5月 待ちに待った船体
カーラの一本つなぎ

沖縄が梅雨に入った頃、ニヌハ2世号の船体が到着した。
小さなニヌハと比べると、圧倒的な存在感がある。
新城氏の作品の特徴的な部分はカーラ(船底)にある。
浅い珊瑚礁の海を走るサバニにとっては、カーラの強度は重要だ。
一般的なカーラは、前方、中央、後方と3つの材が組み合わされて作られる。
「今の俺の技術ならば、1本材で作ることができる。俺の生きているうちに作らせろ。」
我がチームリーダーの仲村氏と新城氏の間では、こんな会話があったそうだ。
通しカーラにより、強度を増した船体はさらに軽量化をすることができる。
俺たちの最大の目的は、サバニで旅をすること。
浜に担いで上がるためには、船体の軽量化は重要なファクターなのだ。


木製の船体は、そのまま使えば海水を吸い込んで重くなる。
では、ニスを塗ればよいのか?
答えはNOだ。木は呼吸する。
ニスを塗って呼吸を止めてしまえば、わずかに染み込んだ海水がいつまでも乾かず、船体を腐らせる。
史実では、サメの油を塗ったのだと言う。
仲村氏が目を付けたのは、老舗のかまぼこ屋から出る廃油。
魚を何度も揚げた油は、粘度がなくなりさらさらとして浸透性がいい。
手と作業服を油まみれにしながら、何度も何度も船体に油を染み込ませる。
いつしか白い船体は、チーク材のような輝きを持つようになってきた。

染み込んだ油は、何年もかけて硬化して行く。
さらに海水中の菌により、表面に黒いカビが繁殖すると、船体はさらに強度を増す。
写真(下)はニヌハ1号艇。


カスタマイズ

買ってきたサバニがそのまま使えるほど、この世界は甘くは無い。
木製のサバニはいわばクラシックカー。
手が掛かるのはあたりまえ。
使い手によって、マストや帆、アウトリガー、座席など、設計と現物合わせを繰り返して、初めて使える艇へと育っていくのだ。
このあたりは、別に主催する「不良の系譜」と全く同じ種類の作業だ。


エーク

自分のエーク(櫂)は自分で仕上げるのが、俺たちのやり方。
エークは、パワーを伝達する重要なパーツ。
車で言うならば、タイヤやドライブシャフトにあたる。
色々な種類のカンナを使用して、入念にエークを仕上げる。
カヤッカーの知恵を生かして、楕円形のグリップにした。
面はスプーン状に加工した。こだわりまくりのパワー・エークだ。
「車はどれも同じ」という人種には、一生解せぬ愚行に映るのだろう。

エークは古武道の武器として使用される。
実はこのエークの材は、古武道用品店で購入したものだ。
「サバニのレースで使う」と伝えると、お店の人は目を丸くしていた。
「漕ぐのですか@@)?」と。
彼らにとっては、エークは殴るものらしい。


帆(フー)
帆は、サバニの印象を決定する重要なパーツだ。
サバニに関して言えば、美しいものが速い。美しいものが正しい。
俺たちがモデルにする帆は、カヤック・センター浜比嘉アジトの番人「外間氏」のお爺様(海人)が実際に使用していた物だ。
それは、曲線を多用した美しい帆だ。
それをレプリカあるいは進化させるつもりだ。スペアとして、本物も持ち出すつもりでいる。
その外間氏も、今回漕ぎ手として参加をお願いしている。
サバニを知り尽くした、強力な助っ人だ。
さて、仲村氏は既に図面を起こし、材料を調達した。
間もなく、美しい帆を見ることができるだろう。


アウトリガー
アウトリガーは無いほうがいい。
風を受け、船体を傾斜させながら走る姿に憧れる。
また、アウトリガーが無ければ水の抵抗も少ない。
しかし、転覆したときは・・・
全員が集まって練習できるのは、レース直前しかない俺たちにとっては、アウトリガーを外すことは危険な冒険だ。
ならば、極力美しいものを作成するのが俺たちのやり方だ。
サバニ本体と同等の手法でアウトリガーを作り上げた。
塩ビパイプを付けただけでも、同等に機能する。
そんなことは百も承知だ。