選手の爆漕ぎが続いている。
皆で声を出し合い、辛さを乗り越えて漕ぎ続ける。
5名乗船時のニヌハ2のバランスは良好だ。
アビーム(横風)を受けている時は僕の仕事も多い。
常に帆綱を引いたり緩めたり、艇が安定している範囲内でのアウトリガーの滞空時間を稼ぐ。
ロープを持つ握力は既に限界を超えているが、漕ぎ手の辛さを思えばなんでもないことだ。
黒島からここ前島までは、潮と風に押されて最もスピードの乗るポイントのはずだった。
風位はランニングとなる。
ランニングでは、艇と風のスピードが一致する。
これは、乗船している僕たちには、風を感じない事を意味する。そして、ニヌハ2の風見は破損している。
僕は、この間に風位を見失ってしまった。
風位がランニングであるのか、風が弱くなっただけだなのかを、判断しきれない時間帯があった。
船速が落ちる。
伴走船からホーボー氏が叫んで指摘してくれるまで、計算上は3分程度のタイムロスになっている。
これまで、目標としている艇のトランサムを何とか捕らえていたにもかかわらず、ここで大きく離される結果になってしまったのだ。
僕にとってチームにとって、もっとも悔しいタイムロスだ。
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