午前8時。
レースがスタートした。
スタートは、浜に並べられた35艇にいっせいに駆け寄り、海に押し出す方法だ。
練習の成果があり、艇の押し出しや、ラダーの装着、帆を上げる動作など、全てが完璧に行なわれた。
実は艇のバランスのTESTも、前日の最終に行なっていた。
「風を入れて艇を傾け、どこまで耐えうるか」
ニヌハ2は旅先での上陸を考慮して、非常に軽く設計されている。
その為、昔のサバニに比べると安定性に欠けると理解していた。
しかし、実際には長時間アウトリガーを浮かせ、船体を傾け(ヒールさせ)たまま走り続けることが可能であった。
着座位置が低いために、艇はバランスを失うことなく走り続けることが証明されたのだ。
アウトリガーが水面を離れると、船速は+1ノット増加した。
しかし、この実験をしたのはこれが始めてである。そう、大きな問題も確認できた。
ニヌハ2のラダーは、可能な限り小さく作成されている。
このラダー作成の時点では船体をヒールさせることを前提にしていない。
その為、アウトリガーの浮き上がりが30cmを超えると、ラダーは効力を失い、艇は風上に向かって迷走を始めてしまうのだ。
さて、スタート地点は力強い南風が吹いていた。
ニヌハ2にとっては、最も得意とする風位だ。
上位の艇に迫る性能を示すことができる状況だった。
しかし、実際には出遅れた。
大きく出遅れた。
僕を含め、皆がアウトリガーを浮かすことへの恐怖心が消えてしまっていたのかもしれない。
アウトリガーが浮いた艇は、風上へと迷走し、帆にそれ以上の風を入れることができなかった。
クルーへの艇の性能に関する説明が充分ではなかった。
ラダーが使えなくなったときに、即座にエークを入れてコントロールする事を怠った。
全てはスキッパーである僕の責任だ。
長距離レースであっても、このスタートがいかに重要かは、後に思い知らされることになる。
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